松代を華やかにする人

この春、一人道化シアター「日楽座」を旗揚げした長野市松代町出身の香山啓さん。

小さな頃は、サーカスやクラウンを見たこともなかったという彼女が、クラウン(道化師)として一人前になるまでには多くの人々との出会いがあった。

女性クラウンとしての身体表現や自己表現を磨き、人を笑わせ、驚かせ、感動させる、香山さんのパフォーマンスを見るだけで、きっと元気をもらえる。

「はじめまして」と、挨拶を交わした香山啓さんの第一印象は、「なんて、かわいらしい人なんだろう」だった。

この小さな体が、舞台では縦横無尽に飛び回り、躍動する。自分の背丈以上の一輪車に乗り、額の上で大きな傘を回したり、さまざまな道具をお手玉のよ
うに操るジャグリングを披露したり。そのパフォーマンスや一挙手一投足に、人々はハラハラどきどきし、歓声をあげ、いつしか舞台にひき込まれていく。

香山さんは、サーカスの世界では珍しい女性クラウンのひとり。2月にキグレサーカスを退団し、この4月11日に出身地の長野市松代町で「道化シアター日楽座」の旗揚げ公演を行ったばかりだ。クラウンに興味を抱いたのは、大学時代。

大道芸で見たパフォーマーの身体表現や自己表現に惹かれ、NPO法人国際サーカス村(群馬県みどり市)が主催する1週間のワークショップに参加した。

「サーカスアーティストやクラウンを目指す人が全国から集まって、共同生活を送りながら技術を学ぶんですけど、ここで受けた刺激が、その後の私の人生を左右することになるんです」。その後、名古屋のクラウンファミリー「プレジャーB」を足がかりに、ンゴルで開かれた「国際サーカスフェスティバル」に出場。さらに、大学卒業後は、さらなる研鑚を積むためにモンゴル国立サーカスへ留学する。

「フェスティバルはI週間だけの開催だったんですけど、新たな世界があることを見せてくれた貴重な経験でした。モンゴルはもちろん、ロシアや中国の雑技団の人たち、各国の一流アーティストの技術に触れて、私もこの世界でプロとしてやっていきたいと思ったんです。雑技団のようなレベルのメンバーと張り合うのではなく、私にしかできないパフォーマンスをして、私の作品を作りあげようと思いました」。
そんな香山さんのもとに、さらなる転機が訪れる。モスクワのボリショイサーカスでジャグラーの男性とコンビでの出演契約がけっていしたのだ。これは日本人として初の快挙である。その後契約期間の終了により帰国した香山さんは、キグレサーカスでの経験を経て次のステップへと踏み出そうとしている。
「実はこの5月から東京暮らしを始めるんですよ。私の尊敬するパントマイムミストの清水きよしさんに、マイムのご指導をしていただけることになって。清水先生のように、息の長いアーティストになるのが夢なんです。
私の場合、象の歩みとねずみの歩みがあるとしたら、象の歩みのようにゆっくりと手間ひまをかけて作品をつくり上げるタイプだと思います。マイムを勉強して新しい表現をみにつけけながら、舞台の上できちんと自分の世界を伝えられるアーティストになりたいですね。」来年の4月23日には、今回と同じ松代文化ホールでの公演がきまっている。きっとその舞台では、ひと皮もふた皮もむけた彼女の見られることだろう。